42.早いね

 

 

「・・・珍しいな。」

頭上で声がしたかと思えば、案の定ソコには部活の先輩が逆光の中立っていた。元々その先輩は背が高いのだが、今海堂は座っているので、尚更距離があった。

見上げる海堂の首が痛くならない内に、乾は隣に腰を下ろした。

「・・・先輩は、いつも此処っすか?」

前後の繋がりの無い海堂の問いに、乾は「ああ。」とだけ答えて、ビニール袋の中からごそごそと先程購買で買ってきたのだろう惣菜パンを引っ張り出す。

「・・・いる?」

そう言っておもむろにパンを差し出す乾に、海堂は些か引き気味に首を振りながら

「いや、俺もう弁当食べましたし・・・。」

そう言い、乾の差し出すパンを断って、乾に早く食べるように瞳で促す。現在12:55。後15分ほどで昼休みも終わってしまうというのに、乾は今からが昼食タイムなのだろう。海堂が見つめる意味を理解した乾は、差し出したパンをそのまま引っ込めて、昼食に取り掛かる。それを見て海堂は、視線を空に向ける。

申し分の無い青空。絶好の部活日和だ。

今日の部活の練習メニューは何をするのだろうとか考えると少し心が弾む。

「いい天気だな。」

ぼんやり空を眺めていると、不意に乾が話しかけた。どうやら昼食は食べ終えたようだ。

そんなに長い時間空を眺めていた訳ではない。それなのに、ほんの5〜6分で食事を済ませてしまうなんて、恐るべきスピードだ。そんな食べ方明らかに消化に悪いだろうと海堂は思うが、何も言わなかった。

「天気予報では明日も晴れるそうだよ。明日もここで昼飯が食えそうだな。」

そう言って、海堂に柔らかく微笑みかける。何もかも見透かしたような余裕顔が憎らしい。明日も自分がここにくると思っているような顔だ。それもデーターだとか思っているのだろう。

「俺は、明日はここに来ませんよ。」

ぶっきらぼうにそう言い放つ。ここに来られない理由などないが、その余裕な表情を崩してみたいと思ったからそう言った。言い放った後に、海堂は少し注意して乾の表情を盗み見たが、乾は表情を変えず、「そうか・・・。」と呟いただけだった。

少しは残念そうな顔をするかと思っていたのに無表情な乾に、逆に海堂が複雑な気分になる。

乾にとって、自分は居ても居なくても構わない程の存在なのだろうか?

そんな思いの中、乾の返答が海堂の思惑通りに行かなかった事で、今の言葉が乾の気を悪くする答え方だったと海堂は自覚し、気まずさから口を噤んだ。そうする事で流れる沈黙に、昼休みの終了を告げるベルが響く。

それに気付き、海堂より先に立ち上がる乾は、教室に戻る前に、ぽんと海堂の頭に手を乗せて、

「まあ、気が変わったら、食べにおいでよ。明日の天気は保障するからさ。・・・俺も来るし。」

そう言って屋上を後にした。残された海堂は一人屋上で、ジリジリと照らされる太陽の下にいた。

幾ら天気が良いからと言って、この時期に屋上に来る者など誰もいないと思っていたのに・・・。だから海堂は一人になりたくて屋上に上がってきた。しかし乾がいた。

「どうして・・・。」

無意識に吐いた言葉は、乾がここに居た理由か、自分の乾への感情か。

海堂は乾が手を置いた所に自分の手を重ねて、乾の最後の一言を思い出し、

「子ども扱いしやがって。」

と、小さく愚痴た。

 

 

翌日。

 

昨日よりも早めに屋上に足を運ぶ。

扉を開いて昨日と同じ場所に向い、腰を下ろす。

昨日と違うのは、手にはいつものお弁当包みを持っている事だ。それを広げて手を合わせ箸をつける。

「・・・あれ?」

昨日より早い時間に昨日と同じ場所に現れた乾が、先に昼食を取る海堂を見つける。

海堂の読みが当たった。来ないと言ったのに、昨日より早めに来たという事は、『もしかしたら』を期待してくれていたのだろうか?

言葉とは裏腹に、乾が嬉しそうに見えるのは海堂の気のせいだろうか?

昨日見れなかった表情を崩した乾を今なら見る事が出来て、海堂は満足気に顔を上げる。

「今日は早いんっすね。」

「海堂も。・・・気が変わった?」

分厚い眼鏡で表情は何時もながら読み取りにくい。だけど、その瞳は絶対に自分に向って笑ってくれているだろうと確信していた。

 

「今日も・・・暑いッすね。」

 

END        

 

 

 

100のお題第一弾です。

何気ない日々にも当てはまりそうですが(実は当初の設定)

やり始めて気付きましたが、私。コンセプトとか決めてやった事無いですわ。

結構お題とかあるとそれで頭一杯になっちゃうんで・・・。

果たして100やり切れるか見物です(オイ)

一応、この時点では二人共自分の想いに気付いているのやら居ないのやら・・・?

まあ、お互い片思い設定でしょう。

このお題ならエロいのでも良かったんかな…(^^;  まあいいや。

 

 

 

 

 

 

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