77.雨

 

 

 

 

 

 

「あぁ・・・。降り出したな。」

窓をぽつぽつと叩く音に気付き、ノートに向けていた視線を音のする方に向ける。

「本日の降水確率…60%」

心の中でそう呟いて、ほくそえむ口元を悟られないように、机に肘を付いて、手で口を隠す。そうする事でぼんやりと窓を見つめる格好になる。

ぽつぽつ…という音の間隔が段々早くなり、雨音がザーザーと本降りの音に変わる。

その音に数人の生徒が気付いて

「げー。今日傘持って来てないのに。」

とチラホラ小声が耳に入ってきた。教壇の教師も生徒達の小声で、窓を一瞥した後、わざとらしく咳をして、生徒達の小声を黙らせた。

窓際の席の乾は、そんな教師やクラスメイトを尻目に、激しく窓を叩く雨粒と、そこに映るぼんやりと肘を付いた自分を見つめていた。

昔から雨が好きだった訳ではない。ただ雨の日になると思い出してしまう。眼光の鋭い、愛しい後輩の事を。

 

 

 

「何やってるんすか?」

怪訝そうな顔で自分を覗き込む。

昇降口で、アスファルトの濡れる匂いに、さてどうしたものかと途方に暮れていた時だった。

「・・・もしかして、傘忘れてきたんっすか?」

折りたたみ傘を広げ隣に立つ海堂に、俺は苦笑いを浮かべ応える。

「う〜ん。持ってきてはいたんだけどね・・・。」

「・・・誰かが持っていっちまったんすか?」

そう。確かに今日の降水確率からして、傘を持って来ないなんて俺の性格からして有り得ないだろう。だが、無造作に突っ込まれている数本の傘立ての中に、俺の傘は見当たらない。となると可能性として考えられるのは・・・。まあ、目立つ傘でもないので、誰かが間違える可能性も十分あるだろう。悪く考えれば、傘を忘れた奴に持って帰られた・・・か。

 

物事を全て悪い方に考える癖は無いが、楽観主義でもない。

きっと盗られただろうなと考えて、今日は濡れて帰るしかないかと諦めていたところに、海堂が通りかかったのだ。

「先輩ん家まで一緒に行きますよ。」

そう言って海堂が傘を傾けてくれた。その優しさに思わず胸がキュウっとなる。

「ぁ・・・りがと。」

ドギマギしながら、的外れな自分の応えに苦笑して、海堂の傘の中に入り込んだ。

「何が可笑しいんっすか?」

俺の照れ笑いを見た海堂は、自分が笑われたのかと勘違いして、むくれた顔をして見せた。そんな仕種さえも可愛らしいと思うあたり末期だなとは思うけれど、そんな自分の感情さえもくすぐったくて、更に笑いが込み上げる。何時までも笑っていると、

「もう入れてやらねえ。」

そう言って海堂は怒って、早足で俺から離れて歩いて行ってしまったので、俺は急に雨粒を浴びる事になった。

「海堂、ごめんって。別にお前の事を笑ったんじゃないって。」

慌てて駆け寄りフォローするが、海堂の様子を盗み見ると、海堂は怒ってはおらず、乾がどう反応するか窺っていたらしい。赤い顔を隠すようにそっぽを向きながらも、傘を差入れてくれた。どうやら大人気ない事をしたと照れているらしい。少し濡れた俺に、顔を背けたままだが、海堂はハンカチを差し出す。それを受け取る時に、海堂の方をチラッと見ると、先程より更に耳まで赤くなっている。

 

その姿に乾は安堵する。寡黙なくせに、何気ない仕草や表情が海堂の性格を雄弁に語ってくれる。他の人ならこの状態で海堂が照れているのだと気付かないだろう。だけど近くでずっと海堂の事を見てきた自分にだけは判る。それが嬉しい事この上ない。海堂にハンカチを返すフリをして、耳元に口を寄せる。

 

「海堂のこと。・・・大好きだよ。」

 

耳元で囁くと海堂は更に真っ赤になって、バッと耳を庇って乾から離れた。急な告白に海堂は状況判断が出来ず困惑していた。

今度は逃げられないように傘の柄を持つ海堂の手を上から握り締める。

手を握られて恥ずかしいのか振り解こうと暴れるが、傘が左右に揺れて二人共に雨粒が掛かる。

傘を持ちながら雨に濡れるのも馬鹿らしいので、海堂は観念して、手をバタつかせるのを止めた。

暫くの間二人、手を繋いだまま歩く。海堂は不貞腐れて、横を向いたままだが、俺の家まであと少しなので、そこまでは我慢して貰えそうだ。

 

 

「ここでいいよ海堂。ありがとうな。」

そう言って手を離す。

「・・・ッス。」

頭を下げ自分の家に踵を返す海堂を再び引き止める。

「少しよっていかないか。傘に入れてくれたお礼にお茶位出すよ。どうせこの雨じゃ自主練は無理だし、この間の全米のビデオもあるんだけど・・・?」

お約束な台詞を吐いたなと思い、少し照れるが、海堂はそれには気付かず、素直に申し出に承諾した。

 

 

雨の日に傘が無いのも良いもんだなと俺はほくそえみながら、海堂を招き入れた。

 

 

 

 

 

 

お疲れ様です。やっとのアップがこれかよ!って、私が一番判ってます・・・Л°

続きが書けるように中途な感じで終わらそうと思ったら意外と難しかったです。

全然中途な感じじゃない。オフを目標に作ったんですが、挫折っぽいな・・・。サイトでは出来るだけ

年齢指定ものをアップしないよう心がけてるんで・・・。その分オフで・・・(汗)

雨って好きなんだけどな・・・。私が雨女だからかも。

6月生まれって雨男雨女が多い気がするのは気のせいかな?乾さんも雨男っぽいよね(笑)

 

 

 

 

 

 

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