『 扉の向こう側へ行けば・・・・ 運命が変えられる。』
あの時、何故俺は三谷を幻界に呼び込んだのか。 もう戻る事の無い現世と、三谷の姿を思い描く。 あいつの事を考えると少し心が揺れた。
『・・・もう会う事も無い。』 そう言いながら、俺は再びこの幻界で三谷と出会える事を望んでいた。 『ガサラ』の街を一人歩く中、俺を呼び止める声がした。 ああ、やはり来たか・・・。
「三谷。」
不意に名前を口にする。しかし、俺はそのまま気付かないフリをして、先へ進む。
「芦川!」
俺を呼ぶ声。振り返りはしない。その場から逃げるようにローブを羽織り足を速める。
(どうして来た?)
(どうして呼んだ?)
俺の中で繰り返される言葉。 当然だ。 願いを叶える事が出来るのは一人だけ。叶えられなかった旅人は二度と現世に戻れないのに。 俺はそれを知っていて、あいつを巻き込んでしまった。 俺一人で、宝玉を集め、願いを叶え、現世に戻るつもりだったのに。
(どうして?)
そう考えながら、ふと顔を上げると、ショーウインドウ越しに映る自分が、 こちらを見つめていた。 『本当は気付いているんだろう?』 そう言っている様に微笑んでいる。俺は思わずガラスを叩き割った。 大きな音と共に崩れ落ちる自分の幻影を見下ろす。 砕け散ったもう一人の俺は尚も笑い続ける。 (本当は誰かに止めて欲しかったくせに。)
「違う!」 もう一人の自分に怒鳴りつける。 ガラスを割り、突然叫ぶ俺に、幻界の奴らがその騒動に非難の目を向ける。 俺は奴らを睨み付けてその場を後にする。 歩みを進めながら、俺は再び考える。 誰かに止めて欲しかった? 『こんなの。自分の願いの為に誰かを犠牲にするなんて間違ってる』と
「・・・違う。」 アヤが何をした? そうだ。三谷もどうなろうと・・・。 痛むのは胸では無く、硝子の破片で切れた右手。 アヤがいなくなったあの時に比べれば、
「どうって事は無い。」 そう呟いて、俺は再び歩を進める。 次の目的地は『リリス』三谷も宝玉を狙ってくるだろう。 きっと俺を追いかけてくる。ぐずぐずはしていられない。 力を温存しておきたいが、そうも言っていられない。 呪文を唱えて、瞬間移動で宝玉の場所へ急ぐ。 今日まで、幻界でこんなに急ぐ事も、他人を気にする事なども無かった。 三谷が来たからだ。 宝玉を巡って俺はまた必ず三谷と合間見える事になるだろう。 しかしそれさえも楽しみに思ってしまっている。
「変な奴なら・・・一人。」 ゾフィ皇女に尋ねられて思わずそう答えた。 あれから、三谷と一騒動ありながらも、俺は宝玉を手に入れた。 最後の宝玉の在処イルダ帝国に来ていた。俺の答えに、皇女は核心を突く返答をした。 「そのような顔で思い出されるお友達は、大切なお友達の証拠ですわ。」 意外な答えに、皇女を見つめる。彼女は何も言わず、微笑み続けながら俺を見ていた。 (何も判って無さそうな女だと思っていたが・・・。) 流石皇女・・・っと言った所か。そう思いながら俺は彼女に微笑み返した。
「・・・その鏡にはきっと、貴方の顔が映るのでしょうね。」 最後の宝玉には、その者が一番見たくない物を映す鏡があると言われ、 皇女の気を引く為にそう答えた。 どうせ、映し出される光景など判っている。 その光景を想像しながら、浮かない表情になってしまったらしい。 皇女はそんな俺を察して、何かと励まそうと気を揉んでくれたが、 その時にあいつの顔がフッと浮かんだ。 「・・・三谷?」 あいつがその鏡を見た時に一体何が映るのだろう? 出来るなら、あいつにはそんな鏡を見て欲しくないと思った。
「なんて顔してるんだよ・・・。ワタル。」
最後の光景。 崩れ落ちる俺に、あいつは自分の事のように涙を流し、一緒に帰ろうと言ってくれる。 その言葉だけで救われた気がした。 「・・・どこで、間違えたんだろうな?」 一人呟く俺の前に、『アヤ』が立っていた。 (やっと、会えた。) ゆっくりとアヤに手を伸ばす。ワタルのおかげかもしれない。 こうして、アヤに会えた事。
『お兄ちゃん。』 アヤと一緒になりながら、ワタルを見下ろす。 彼は、運命の女神が願いを叶えてくれて、現世に戻してくれるだろう。 「良かった。」 そっと俺は呟く。 きっとあいつは幻界の平和を望むのだろう。お人好しなあいつの事だから、 自分の願いを優先させるような事はしないだろう。
(馬鹿な奴) 苦笑しながら、そう呟く。あいつが望まないのなら、代わりに俺が言ってやるよ。
「願わくば、お前の望む未来を・・・。」
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<あとがき>
ぶっちゃけ本気で嵌ってました。勢いで出したコピ本からの掲載。夏の過ちです(爆)
湯塚結構暗い話を望んでたんですが、他所様はギャグ系が多くて、ギャグセンス皆無の私にはハードルが高すぎる・・・。
ってことで、最初で最後になる可能性大です。もう一作あれば、サーチとかにも登録できるんだけどな・・・。