『 扉の向こう側へ行けば・・・・

    運命が変えられる。』

 

 あの時、何故俺は三谷を幻界(ヴィジョン)に呼び込んだのか。

もう戻る事の無い現世と、三谷の姿を思い描く。

あいつの事を考えると少し心が揺れた。

 

『・・・もう会う事も無い。』

そう言いながら、俺は再びこの幻界で三谷と出会える事を望んでいた。

 『ガサラ』の街を一人歩く中、俺を呼び止める声がした。

  ああ、やはり来たか・・・。

 

 「三谷。」

 

不意に名前を口にする。しかし、俺はそのまま気付かないフリをして、先へ進む。

 

「芦川!」

 

俺を呼ぶ声。振り返りはしない。その場から逃げるようにローブを羽織り足を速める。

 

(どうして来た?)

 

(どうして呼んだ?)

 

俺の中で繰り返される言葉。

当然だ。

願いを叶える事が出来るのは一人だけ。叶えられなかった旅人は二度と現世に戻れないのに。

俺はそれを知っていて、あいつを巻き込んでしまった。

俺一人で、宝玉を集め、願いを叶え、現世に戻るつもりだったのに。

 

(どうして?)

 

そう考えながら、ふと顔を上げると、ショーウインドウ越しに映る自分が、

こちらを見つめていた。

『本当は気付いているんだろう?』

そう言っている様に微笑んでいる。俺は思わずガラスを叩き割った。

大きな音と共に崩れ落ちる自分の幻影を見下ろす。

砕け散ったもう一人の俺は尚も笑い続ける。

(本当は誰かに止めて欲しかったくせに。)

 

 

「違う!」

もう一人の自分に怒鳴りつける。

ガラスを割り、突然叫ぶ俺に、幻界の奴らがその騒動に非難の目を向ける。

俺は奴らを睨み付けてその場を後にする。

歩みを進めながら、俺は再び考える。

誰かに止めて欲しかった?

『こんなの。自分の願いの為に誰かを犠牲にするなんて間違ってる』と

 

「・・・違う。」
俺はもう一度、呟く。
そんな事を言っていたら、誰がアヤを救ってやれる?アヤはまだ3歳だったんだ。

アヤが何をした?
アヤこそが犠牲者だ。
あの子を救えれるのなら、こんな世界どうなろうと構わなかった筈。

そうだ。三谷もどうなろうと・・・。
そう思うのに、胸がジクジク痛むのは何故なのだろう。
先程の硝子の破片を思い出す。あぁ、丁度それで切り付けたような痛みだ。

痛むのは胸では無く、硝子の破片で切れた右手。
俺は流れる血を舐め上げる。
こんな痛みあの時に比べれば、

アヤがいなくなったあの時に比べれば、

 

「どうって事は無い。」

そう呟いて、俺は再び歩を進める。

次の目的地は『リリス』三谷も宝玉を狙ってくるだろう。

きっと俺を追いかけてくる。ぐずぐずはしていられない。

力を温存しておきたいが、そうも言っていられない。

呪文を唱えて、瞬間移動で宝玉の場所へ急ぐ。

今日まで、幻界(ヴィジョン)でこんなに急ぐ事も、他人を気にする事なども無かった。

三谷が来たからだ。

宝玉を巡って俺はまた必ず三谷と合間見える事になるだろう。

しかしそれさえも楽しみに思ってしまっている。

 

 

 

 

「変な奴なら・・・一人。」

ゾフィ皇女に尋ねられて思わずそう答えた。

あれから、三谷と一騒動ありながらも、俺は宝玉を手に入れた。

最後の宝玉の在処イルダ帝国に来ていた。俺の答えに、皇女は核心を突く返答をした。

「そのような顔で思い出されるお友達は、大切なお友達の証拠ですわ。」

意外な答えに、皇女を見つめる。彼女は何も言わず、微笑み続けながら俺を見ていた。

(何も判って無さそうな女だと思っていたが・・・。)

流石皇女・・・っと言った所か。そう思いながら俺は彼女に微笑み返した。

 

 

「・・・その鏡にはきっと、貴方の顔が映るのでしょうね。」

最後の宝玉には、その者が一番見たくない物を映す鏡があると言われ、

皇女の気を引く為にそう答えた。

どうせ、映し出される光景など判っている。

その光景を想像しながら、浮かない表情になってしまったらしい。

皇女はそんな俺を察して、何かと励まそうと気を揉んでくれたが、

その時にあいつの顔がフッと浮かんだ。

「・・・三谷?」

あいつがその鏡を見た時に一体何が映るのだろう?

出来るなら、あいつにはそんな鏡を見て欲しくないと思った。

 

 

 

 

 

「なんて顔してるんだよ・・・。ワタル。」

 

最後の光景。

崩れ落ちる俺に、あいつは自分の事のように涙を流し、一緒に帰ろうと言ってくれる。

その言葉だけで救われた気がした。

「・・・どこで、間違えたんだろうな?」

一人呟く俺の前に、『アヤ』が立っていた。

(やっと、会えた。)

ゆっくりとアヤに手を伸ばす。ワタルのおかげかもしれない。

こうして、アヤに会えた事。

 

『お兄ちゃん。』

アヤと一緒になりながら、ワタルを見下ろす。

彼は、運命の女神が願いを叶えてくれて、現世に戻してくれるだろう。

「良かった。」

そっと俺は呟く。

きっとあいつは幻界の平和を望むのだろう。お人好しなあいつの事だから、

自分の願いを優先させるような事はしないだろう。

 

(馬鹿な奴)

苦笑しながら、そう呟く。あいつが望まないのなら、代わりに俺が言ってやるよ。

 

 

「願わくば、お前の望む未来を・・・。」

 

 

 

 

<あとがき>

ぶっちゃけ本気で嵌ってました。勢いで出したコピ本からの掲載。夏の過ちです(爆)

湯塚結構暗い話を望んでたんですが、他所様はギャグ系が多くて、ギャグセンス皆無の私にはハードルが高すぎる・・・。

ってことで、最初で最後になる可能性大です。もう一作あれば、サーチとかにも登録できるんだけどな・・・。

 

 

             


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