[catch a cold]

 

 

 

「……休み?」

海堂は、思わず驚いた声を出してしまった。

朝から姿が見えなかったので、部活の時間に海堂は彼と同じ3年の菊丸を呼び止めて訊ねて見たら、返ってきた答えは、風邪で学校を休んでいるとの事だった。

「ほ〜んと。間抜けだよね。自分の誕生日に学校休むなんてさ。俺、明日来てもプレゼントなんてやんないもんね。」

そう笑いながら口を尖らせる菊丸だが、今日彼のカバンの中にプレゼントが入っているのか怪しい所である。

そして、そんな菊丸の言葉に呆然としている、海堂のカバンの中にこそ小さな包みが眠っていて、たった今、行き先を失ったばかりだった。

(…先輩の家なんて憶えてねぇぞ。)

海堂は背中に冷たい汗が流れた。ダブルスを組む間柄でもあり、それ以上でもあるくせに、学校から近いと言う事も有り、乾が海堂宅に来る事の方が殆どで、海堂は乾の家を知らなかった。正しくは、乾宅の道程を覚えていない。乾宅に行った事は有るが、一度か二度で覚えられる程、乾の家は駅から近くは無かった。携帯電話が氾濫している今、友達同士でアドレス交換と言えば、住所交換ではなくメールアドレスが当り前で、住所なども判らない。聞くのも今更だ。

別に明日でも構わないのだろうけれど、以前からしつこい程今日が自分の誕生日だとアピールされていたので、その本人が、風邪で寝込んだなど、さぞ落ち込んでいる事だろう。だからこそ、今日の方が良いのでは無いかと海堂は思う。

暗い影を落とす海堂を見て、菊丸のいたずら心に火がついた。

「海堂。もしかして乾にプレゼント用意してた?うわー乾ってば愛されてるにゃ〜。プレゼントって何?何?自分にリボンでも巻くの?」

親父くさい下世話なネタで盛りあがる菊丸に、海堂は真っ赤になって菊丸を怒鳴りつけようとしたが、

「じゃあ、僕の乾へのプレゼントこれにしよう。」

その言葉と共に海堂は後ろから羽交い締めにされてしまった。

突然気配も無く現れた第三者に、海堂も菊丸も驚く。

「不二。(先輩。)」

その言葉に、不二は海堂を離して、話の輪に加わった。

「乾今日休みなんだってね。海堂お見舞いに行ってあげたら?」

不二も菊丸と一緒になってからかってくる。

「俺、乾先輩の家知らないッすから。」

不二には(後が怖いので)怒るに怒れない海堂は、ぶすっとした口調で答える。しかし不二はその答えを待っていたかの様に、にこやかに海堂に小さく折りたたんだ紙を渡す。

「そう言うと思ってこれ、乾の家までの地図。僕もう乾に海堂が行くって連絡しちゃった。手塚の許可も取ってあるし、しっかり看病してあげてきてね。」

笑いながら凄みを聞かしてくる不二にNOと言える者などいない。その上、

「乾のご両親が夕方まで戻れ無いそうなので、様子を見てきて欲しいと頼まれているのだが、何でも不二がお前が良いと言って聞かないので頼まれてやってくれ。」

手塚にまでそう言われてしまっては、行かない訳には行かない。

 

しかも今から。

 

海堂は深々と溜息を吐いた。

 

 

 

「…ったく。なんで俺が。」

不二から貰った地図を片手に、海堂はふらふらと乾宅へ向かった。

何故ふらふらしているかと言うと、海堂が乾の家に行くと聞いて、レギュラーの面々がそれぞれ乾への誕生日プレゼントやお見舞いの品を海堂に持たしたからだ。

無いと思っていた菊丸もしっかり用意していて、海堂は少し驚いたが、レギュラーの他にも、乾ファンから受け取ったケーキや花束やらまで押し付けられて、大なり小なりの箱が一杯入った紙袋を海堂は両手一杯に持っていた。腐っても青学レギュラー。しかも長身で大人びた雰囲気の乾はなかなかもてるのだ。

 

 

ふらふらしながらも30分程歩けば乾宅に着くことができた。

インターホンを鳴らすと、鍵は開いているからとドアホン越しに返事があり、無用心だと思いながら海堂は『お邪魔します』と呟いてから、乾の部屋に向かった。ドアをノックしてから入ると、ベットの中から咳き込むのが聞こえた。

「自分の誕生日に風邪っすか。」

皮肉を込めてそう言いながら海堂は両手一杯の荷物を肩から降ろした。ここまでこの荷物を運んできたのだから皮肉の一つもこぼれる。

「これ、預かってきたあんたへのプレゼントとか色々ッす。」

漸く咳が収まり、布団から顔を出す乾の額に、手を当てて熱を測る。

38度と言った所だろうか。

「薬も飲んだし、咳も出てきたって事は治り掛けてるって事だから心配する程じゃないんだけど、出来ればもう少しこうやってて欲しいな。海堂の手、気持ち良いし。」

熱の所為か甘えてくる乾に、普段なら一喝している所だが

(一応病人だし、誕生日だし、今日位は…)

と暫くそのまま額に手を充てて置いてやると、嬉しそうに瞳を閉じて、ごめんな。と呟いたかと思うと、そのまま寝息が聞こえてきた。どうやら日々の睡眠不足も祟っているらしい。

そう言えば、乾の寝顔をきちんと見たのは初めてかも知れない。

いつも隙が無いと言うか、一緒の布団で夜を明かすにも、いつも海堂の方が先に意識を飛ばしてしまっているし、朝も海堂より早いか、同じ時間に起きている。普段眼鏡で隠されている切れ長の瞳は、乾を一層大人っぽく見せる。今は閉ざされているので、寝息を立てる乾を年相応に見せる。今日からまた自分の一つ上になる。

「…の割には片付け下手だよな。この人。」

海堂は眠る乾を起こさないように呟いて、そこいらに散らばった雑誌を棚に戻し始める。別に年上だから片付けが上手い下手がある訳では無いが、あれだけ細かいデーターを採る割にはこう云う所は杜撰である。

海堂は手際良く乾の部屋を片付けていった。

 

 

「…あれ?」

目が覚めて見ると、自分の部屋が片付けられている。そして隣にはベッドにもたれ掛かり海堂が乾の手を握ったまま、舟を漕いでいる。幸い乾が身動いでも、起こしはしなかった。

海堂を起こさないように気をつけながら乾はそっと海堂の髪を梳る。

こうやって海堂が看病をしてくれるなら風邪を引くのも悪くはない。

「僕からの誕生日プレゼントだよ。」

そう電話越しに言われた不二の言葉を思い出し、一人にやける。

…でも、来年もこの次もこうして海堂は自分の隣にいてくれるだろうか?

自分の弱気な考えに負けない様に海堂の頭を抱きしめる。

「…ん。」

いきなり頭を抱きしめられて流石に海堂も目を覚ます。

「…おはよう。そろそろ帰らないと日も暮れてるからね。」

乾にそう言われて海堂は再び乾の額に手を当てて熱を測る。先程よりは熱が下がっている。海堂はほっと息をつき、ポケットにある小さな包みを乾に渡す。熱のある乾より真っ赤な顔で

「…。遅くなったけど、誕生日おめでとうゴザイマス。」

そう小さく言うと、ベットに手を付き、軽く口付けた。

「…風邪うつるよ。」

海堂に負けずに赤い顔の乾に海堂も負けずに赤い顔で

「貰ってやる。」

「俺の誕生日なのに、奪われちゃうんだ。」

そう言いながら二人して吹き出す。

笑いながら再び唇を合わせ、海堂は囁く。

 

(ハッピーバースデイ)

 

END     

 

 

*乾さんお誕生日小説なのですが、6/4の0:00にうちのPCが潰れまして、

UPが遅くなりました(×△×)ごめんなさい乾さん・・・。

しかも誕生日ネタなんて皆やってるだろうから、ベタなネタ(風邪ネタ)をダブルパンチで使っちゃおうと

思って、しかも短めでとか考えてたら・・・。どうでしょうかね?

 

 

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