幼 馴 染 み
「侑ちゃーん。やったね。俺達また同じクラスだYo―。」 嬉しそうにはしゃぐジローの首根っこを捕まえて俺は教室に急いだ。こいつを放っといたら絶対入学初日のHRに遅れるに決まっとる。俺とジローは親の勧めもあってここ、氷帝学園に入学した。 親が友達同士だということで俺とジローはガキの頃から一緒につるんどった幼馴染みっちゅう奴や。相変わらずのんびりしているジローを引きずって教室に入ると案の定もう大半の奴らが席に着いとった。俺はジローを(芥川やから大抵一番前やしな)席に連れて行って、その後自分の席に着いた。 かったるいHRが終わり、始業式の為、講堂に移動となった。俺はジローの方を見遣るとやっぱり、熟睡中やった・・・。 やれやれと溜息を吐いてジローを起こしに傍まで行くと、ジローの後ろの奴もジローと同じ様に爆眠をかましていた。 『何やこいつ。ジローに負けず劣らずの大物やな。』 こんな真ん前でしかも二人も堂々と居眠りをしているのを許す担任もどうかと思うけどなあ。 ついでに起こしといてやるか・・・。俺はジローの頭を勢いよく叩いて起こした後、その後ろの奴の肩に手を掛けて何回か揺さぶってみたが、一向に起きる気配が無い。 「おい、あんた。もう始業式始まんで。」 「・・・樺地ぃ。もう少し寝かせてくれ。」 ・・・いや、少しってあかんやろ。それに樺地って誰や?こいつ完璧に寝ぼけ取るな。そう思った俺は、初対面で少々悪いと思ったが、ジローと同じ方法で起こさせて頂く事にした。 「ゴッツン。」 もう誰もおらんくなった教室に鈍い音が響き渡った。やばっ、流石にやり過ぎたかと思ったが、頭突かれた男は、むくりと起き上がった。 「あ、殴ってすまんかったな。でももうすぐ始業式やから、移動せなあかんで。」 一応やんわりと謝りつつ、男の様子を覗って見ると、結構端整な顔立ちには、明らかに不愉快の色が浮かんでいる。 「お前か。今俺様の頭を殴ったのは。」 怒ってる。明らかに怒ってる。・・・でも起こしてやったのに逆切れされた。これが情けは人の為ならずってこういうことやろか?いや、ちゃうやろ。と一人突っ込みをしながらどうしようかと思っていると、俺の頭にいきなり鉄拳が落ちた。 「痛っつ〜。何すんねん。」 不意打ちを食らって、思わずしゃがみ込む俺に、そいつはいけしゃしゃあと 「これでチャラにしておいてやる」 と言い放ち、教室から出て行った。 ****** 「侑ちゃんさっきの人すっごく綺麗な人だったねー。」 高度に急ぐ途中、寝ぼけ眼のジローがそんな事を呟いた。珍しく他人の事を覚えたようだ。 俺はジローの言葉から、さっきの男の顔を思い出した。まあ、顔は確かにジローの言う通り綺麗やったが、性格があれじゃあなあ。 それにこんな事言うこいつも並みのモデルより綺麗な顔しとるしな。ジローをガキの頃から見てるせいで俺も随分と面食いさんになってもうたしな・・・。 ジローを引きずりながらムームーとそんな事を考えながら講堂に入ると既に始業式は始まっていた。 ****** 「滋郎。この後部活の勧誘やるらしいけど、テニス部よって入部届けだして来よか。」 俺達の両親が仲の良いのは、テニスを通してであって、良くある話だが自分達の叶わなかった夢を子供に託そうと二人共もの心つく前からラケットを握っていた。 氷帝に入ったのかてテニスの為やし、俺は問題無いがジローには夜遅くまで受験勉強を叩き込んだ苦労は全てこの為やねんから。俺たちは気もそぞろでテニス部室に急いだ。 「あーっさっきの綺麗な人だよ。って、もしかして君マネージャー志望?」 嬉しそうに近づくジローの手を払い除け、きつい眼差しを向けながら 「あーん?貴様何をトチ狂ってやがるんだ?俺様はいずれこの氷帝学園男子テニス部の部長になる跡部圭吾様だ。よーく覚えておけ。」 そう言い放つとジローを押し退けて、テニス部室に入っていった。 ジローは呆気に取られて、阿呆みたいにぽかーんと口を開けている。どうやらあいつの事を女やと思っとたらしい。昔ッから惚れっぽい奴やったけどここまでとは・・・。肩を落とすジローを慰めるのもいつも恒例の俺の役目になっている。ポンとジローの肩に手を置いてやると 「お、面白い。面白いよ。侑ちゃん。俺あいつの事気に入ったyo。」 そう叫ぶとあいつを追ってテニス部に駆け込んでいった。今度は俺が阿呆みたいに口を開く番だった。
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