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BY.INUKOU YUTSUKA

 

全ての騒動が一段落着く頃には、すでに昼を過ぎていた。

手塚はひたすら謝り倒し、菊丸は大石に代わって桃城と海堂を叱り付けた。

この時点で青学テニス部対抗屋台売上戦は意外にも焼きソバ屋がトップだった。早々と乾を追い出した河村の作戦勝ちである。

後を追うのが菊丸・大石ペア、次は意外にも騒動の絶えない金魚掬いの屋台、そして、たこ焼きと続いていた。

この中間報告を聞いて一番ショックを受けたのは手塚であった。

部長足るもの最下位とは他の者に示しがつかない。午後からは気合いを入れなければと思うのだが、たこ焼きの屋台は手塚の所だけではないし、午前中の赤いたこ焼き事件から、お客は益々遠のくばかりである。手塚は暫く赤いたこ焼きの山と共に途方に暮れていたが、このままでは最下位確実なので、暫く敵線調査に出ることにした。

関西人ではない手塚は、実は生まれてこの方たこ焼きを焼いた事など無かったので、他のたこ焼き屋台の焼いている所を見るのは大変参考になった。

まず油を引き、タネを入れ、削り粉、天カス、蛸、の順に入れる。それを手早くピックでひっくり返し、形を作る。そして焼きムラが無い様に、適当に中央と端のたこ焼きを入れ替える。出来あがったら、舟に盛り、ソース、鰹節、青ノリを掛けて、爪楊枝を刺す。

その一連の動作を暫く眺めてから、他にも、人集りが出来ている屋台を覗き、自分の屋台に戻って来た。

手塚は、目を瞑り今見てきた事を暫く反芻し、カッと目を開くと同時ににタネの入った鍋に手をかけた。

その後の動作はまるでテニスの素振りでもしているかの様だった。

たこ焼き用の鉄板に油をひき、タネを注ぎ、削り粉、天カス、蛸と流れる様にたこ焼き器に注いでいく。素振りを応用しているので、少々大振りであるその様子は手塚のビジュアルもあり、若い女性の観客を惹き付けるには十分なものであった。手塚の汗が飛び散る毎に黄色い歓声が、何故かたこ焼き屋の屋台から上がった。

たこ焼き屋から起こる異様な黄色い歓声に、他のお客達も何事かと集まってきて、手塚の周りに人集りが出来あがった。

それを見た手塚は、こんなに沢山のお客が自分のたこ焼きを待っているのかと思い焦った。

そして、追詰められて、通常の人間が出せるスピードとは思えない程素早くたこ焼きを丸めていった。手首のスナップを利かし、手元が見えない程の速さで、手塚だからこそ出来る神業だった。

全てのたこ焼きを丸め終わったら、次は、満遍無く焼きあがるまで、適度にたこ焼きの場所を入れ替えたりするのだが、手塚のたこ焼き達は、次の瞬間宙に舞っていた。それと同時に手塚自身もヒーロー跳びで宙に舞いあがり、たこ焼き達は空中で、サラダ油をかけられ、いつのまにか手塚の手に握られていたガスバーナーがたこ焼き達に向かって火を吹いた。そのままたこ焼き達は綺麗に元の鉄板の上に収まり、手塚は、そこからムーンサルトを披露して着地した。辺りは拍手喝采が沸き起こり、アンコールの声が飛び交う。

どうやら手塚が最後に回った人だかりのあった屋台とは大道芸らしい。

「さあ、油断せずに行こう。」

手塚はそう呟くと、慎重に青海苔と鰹節とソースを掛け、船に盛った。一体何に油断しないようになのかは手塚にしか判らない。しかし手塚は言葉通りに着々と、完成したたこ焼きを積み上げていった。

綺麗に盛られたたこ焼きはそれまでの話題性もあり、瞬く間に売れた。幾等作ってもすぐ売り切れてしまう。

手塚のたこ焼き屋には最後まで長蛇の列が絶えなかった。

手塚のムーンサルトが50回目を披露した頃、祭りは終了し、蛍の光が流れた。

 

 

後片付けをして、青学テニス部レギュラー陣は疲労困憊で自分達の学校に戻ってきた。

河村・桃城は自分達の使った道具をレンタル会社に返す作業。大石・乾は本日の売上を各屋台毎に集計する作業。越前・菊丸・不二でささやかな打ち上げの準備に今日各屋台で作った、たこ焼き・焼きそば。その他飲み物等、買い足した物をテーブルに広げていた。

 

 

「それでは、本日の祭りの無事(?)終了を祝して、乾杯。」

手塚が乾杯の音頭を取り、皆は紙コップを片手に乾杯をしながら、お疲れ様。とお互いの労をねぎらった。空腹もピークに来ていた彼らは、テーブルの上をあっという間に綺麗にしてしまった。皆が一息付いた所で、乾が口を開いた。

「では、お楽しみの集計結果が出たので発表するが、今回は売上数ではなく金額のみで算出したらなんとトップが21万5200円で手塚と不二のたこ焼き屋だったよ。」

その意外な発表に皆の視線が一斉に手塚に集まる。あの追い上げだけでどうやって?っという疑問の色がありありと表情に表れている。しかし一番驚いた顔をしているのは手塚だった。確かに自分は頑張った。しかしたこ焼きは一盛300円。どう考えても21万はおかしいそんなに売った覚えも無い。『乾の計算ミスか?』手塚だけでなく皆がそう考えた。すると、乾がテーブルの上に大きな箱をドンッと置いた。

箱を見ると、「見物料お一人様1000円」と大きく不二の字で書かれていた。

「お前等、今俺が計算ミスしてるんじゃないかと思っただろう。失敬な。この箱の中にきっかり15万入ってるよ。誰かさんのお陰でこっちは精算が大変だったよ。」

乾は不二を見ながら、そう愚痴た。そうして、ポケットから封筒を取りだし不二に手渡した。

封筒の中にはチケットが二枚。行き先はここから目と鼻の先のリゾート温泉(料理付)だった。

「…・乾、確か景品は温泉旅行だったよね。」

「ああ、でも誰も一泊旅行だとは言ってないぞ。」

乾の言葉に一同が、がっくりと肩を落とした。あれだけ苦労した結果がこんなちゃちな景品だとは、正直割に合わない。皆が口々に『うそつき』や『詐欺師!』など怒りの矛先を乾に向けている頃。

手塚は一人チケットを握り締めて、嬉しそうに微笑んでいた。

                                                                 END

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お疲れ様です。ようやっと完結です。丸一年(汗)まさか最後に自分でHP作るとは思わず、感慨深いです(?)協力して頂いたなづなちゃんに大感謝です。オールキャラと銘打った中、乾海が書きたいと我侭言っていたのも事実です・・・。収拾がつかなくなったのも事実です。でもこうやって無事終了したので、良しとします。            (湯塚 犬公)

 

 

 

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