・サバイバー

 

 

 「おーい。こっちに小屋が見えるぞ。」
大石の声に皆が一斉に大石の指差す方を見る。
指差す先には、確かに、九人位なら余裕で暮らしていけそうな大きなロッジがあった。
日が落ち、暗くなった森を掻き分け、青学レギュラー達はロッジに向かって走り寄った。
「ここですか?合宿所って・・・。」
桃城の問いかけに、一同が首を捻る。
毎年この時期に青学レギュラーだけで、強化合宿を行うのだが、毎年お世話になっていたお寺が今年は改装工事をするので使えないとの連絡を受け、今年は別の所でと聞いていたのだが、それがこのロッジとは考え辛かった。何しろ辺りは雑草が覆い茂っていて、肝心のテニスをする場所が無い。しかし、今から合宿所を探し出すのも、これだけ暗くなっているのでは森の中に更に迷い込んでしまうだろう。
「こうなってしまっては仕方が無い。せめて今日一晩だけでもこちらに泊めて頂ける様に、御主人にお伺いを立てよう。」
そう言いながら、手塚は『御免下さい。』とロッジの中に足を踏み入れた。
他のメンバー達は外から様子を窺っていたが、中に入った手塚が中々出てこないので、皆心配になり、仕方なく、ロッジの扉を開いた。
ロッジの中は今日まで人が暮らしていたかのように綺麗に手入れがされていた。ライトも灯り、暖炉には火が焚かれ、テーブルの上には人数分の食事も用意されている。そして目の前には両手両足を縛られ猿轡をされた手塚国光の姿・・・。一同の視線がそこで止まる。メンバーの脳裏には「ありえない」という一言が浮かんだが、とりあえず、皆して手塚を助ける事にした。
その時、入り口の扉が閉まり、その音で皆が振り返るとそこには小さな妖精が立っていた。
「皆さん。サバイバー会場に良くいらっしゃいました。」
そう言いながら近づいてきた妖精は、体長約20cmで、姿形は人間と変わらないが、背中に生えている羽から妖精と判断できる。風貌は青学テニス部レギュラーの不二周助に酷似している。(乾メモ参照)
突然の妖精の登場に青学メンバーは誰一人として自分達の身に何が起こっているのか分らなかった。手塚は未だに縛られたままである。そんなメンバーを置いて、妖精は喋り続ける。
「皆様にはこれからここで約三週間、共同生活をして頂きます。その中で二日に一度皆様からの投票により脱落者を一人決定します。脱落者となられた方はこの僕が魔法で異空間に飛ばしてしまいますので御了承下さい。最後の御一人だけが無事に御帰還出来ますので、皆様最後の一人になれるよう頑張って下さいね☆」
妖精の一応の説明が終わると、一同はまるで魔法にかかったかの様にポカーンと口を開けたまま立ち尽くしていた。未だに状況が把握出来ていないようだ。そんなメンバーを尻目に妖精はぱちんと指を鳴らして、手塚の縄を解いた。
突然自由になった手塚はそれまでの説明をもちろん聞いてはいたが突然無体を強いられた事と、今まで自由が利かなかった分不満が爆発した。
「けしからん!俺達はテニスの合宿をしに来たのだ。こんな茶番に付き合ってられるか!帰らせて頂く!」
そう言いながら手塚は妖精を押しのけ、ロッジから出て行ってしまった。呆気にとられるメンバー達だが、誰も後には続こうとしなかった。ただでさえ妖精の様な非科学的な物が存在しているのに、今迂闊に外に飛び出すのはかなり危険であるとメンバーは判断したからだ。そんな彼らに妖精はとどめの一言を漏らす。
「あーぁ、大丈夫かなあ、あの人。サバイバーの挑戦者が逃げ出さないようにここから半径3km以上の所には僕のオトモダチ達が待機しているのに・・・。」

その言葉からきっかり二時間後、ぼろぼろになった手塚は、幻の巨人マナティーに抱えられて、ロッジに戻ってきた。その姿は、先日対戦した氷帝学園のジローを抱えた樺地の図に近しいものがあった。
皆は手塚の姿から外で何が起こったのかを容易に想像でき、同時にここから抜け出すには最後の一人にならなければいけない事を悟った。
「それじゃあ、僕はもう行きます。二日後の投票日にまた来ますからそれまで頑張ってくださいね。あっそれと一応皆様テニスの合宿に来られたとの事ですので、テニスコートを御用意しておきますね。」
そう言うと、皆が止めるのも聞かず、妖精とマナティーは消えてしまった。テニスコートまで気が回るのなら、もっと他に色々説明する事があるだろう!と皆は思わずにいられなかったが、文句を言う相手は跡形も無く消えてしまっている。
結局肝心な事は何一つ解らず、妖精の言う事を信じるならばここで9人暮らしていかなければいけないと言う事だ。しかも一人一人消えていく。理由も無く・・・。
とりあえず、手塚を除いたメンバーでロッジの中を点検してまわる事にした。
部屋は一階にはこのダイニングキッチンと奥には大浴場と洗面所。二階に上がると、5つの部屋があった。おそらく寝室だろう。それぞれの部屋にツインのベットと、トイレ。洗面所とシャワールームが設置されている。冷蔵庫の中には食料もたっぷり入っており、調理器具も一式揃っている。電気もガスも水道も通っているらしく、衣食住には困らなそうだ。後は部屋割りには困りそうだが・・・。
一通りロッジを見回り終え、皆がダイニングに再び集まった。もう時間は午後十時を回っていた。今日一日色んな事がありすぎた事もあり、一同は早めに休む事にした。手塚は一部屋に放り込んでおいた。後はもう早い者勝ちである。
「お・お・い・しー。一緒に寝よー。」
菊丸は手塚がいない事を良いことにさっさと大石を角部屋に連れ込んでしまった。
「越前。俺らこっちの部屋にしようぜ。」
「そうっすね。」
そう言いながら、桃城と越前も大石達とは反対の角部屋に入って行ってしまった。
「たかさん。僕と一緒に寝てくれる?」
そう言いながら不二は上目遣いで河村のシャツの裾を掴み、お願いポーズをとった。河村は真っ赤になりながら、コクコクと頷いて、右から二つ目の部屋の鍵を取り二人仲良く部屋に入っていった。
ぼやぼやしている内に、ダイニングキッチンには乾と海堂だけになった。
残る部屋は実質一つ。しかし海堂はキッチンで動けずにいた。皆ごく自然に二人づつ部屋に入っていったが、組み合わせを見れば、海堂だってそれがどういう意味を持つか解からない訳ではない。別に乾とそういう関係では無いとは言わないが、どうにも恥ずかしいという気持ちが先立って、自分から部屋に入れないでいた。そんな海堂を見かねてか、乾は海堂に部屋の鍵を渡して、
「海堂。俺は、手塚の部屋で寝るからこの部屋使っていいよ。」
そう言って、隣の手塚の押し込まれている部屋に行こうとしたが、その服の裾を海堂は掴んだ。不二のように上目遣いではなく真っ赤になって俯いてはいるが、それはそれで、十分に愛らしかった。
「・・・別に、良いっすよ。同じ・・・部屋でも。」
それはとても小さな声だったけれど、海堂はそう呟くと益々頬を赤く染めた。
「海堂。…良いの?」
思わず聞き返してしまった乾に対して、海堂は更に顔を赤くして唸った。
「ッ、変な聞き方してんじゃねえよ!言っときますけど、明日の事も考えて下さいよ。」
そう言いながら海堂と乾も寝室に入っていった。
過酷なサバイバルは明日からスタートするが、今宵はそれぞれの夜を過ごした。


サバイバー開始一日目

早朝、喉の渇きで目が覚めた大石が、キッチンまで飲み物を取りに降りていくと、暗闇の中からごそごそと音がする。
不審に思い近くにあった、誰かのラケットを握り締め、物音のする所まで近づいていくと、
「どうしたんだ?大石。何かあったのか?」
暗闇から良く知る声が聞こえてきた。手塚国光だ。良く見ると、何気に掴んだラケットも手塚の物だった。しかし真っ暗なキッチンで四つん這いにごそごそしている手塚を怪しいと思わず何を怪しむのか。大石は、構えていたラケットを後ろに隠して、手塚に何をしているのか訊ねた。
「このロッジに何があるか調査をしていたんだ。この先何があるか判らんからな。安心しろ大石。非常食として俺は缶詰を少し持って来ている。他の者も何かしら持って来ているだろうし、停電の時の為に蝋燭も用意してきた。水も、この先約2mの所に川瀬があった。しかし、巨人には気をつけろ。奴らはどうやらこのロッジから3m付近をうろうろしているらしい。3mを越えなければ襲っては来なさそうだ。」
そう誇らしげに話す手塚を見ながら、大石はまた胃が痛む思いでいた。昨日あれほどぼろぼろになったのに、手塚はまた懲りずに一人で森の中に入ったらしい。しかも手塚が必死になって調べた殆どの事は昨夜皆で調べたり、聞いた事ばかりだった。その上、
「手塚、一つ聞くけど、缶切りは持ってきたのか?それからローソクに火をつけるマッチかライターは…。」
大石の問いかけに手塚は今更の如く顔面蒼白になり「無い」と呟いた。
「…しまった。俺とした事が…。」
大石はすっかりへこんでしまっている手塚を慰めて、手塚の空白の時間に何が起こったかを丁寧に説明した。
大石が説明を終える頃には、もう朝日が昇り始めていた。
それを見た手塚は、何かを思い出した様にハッとなった。大石は何かあるのかと思い、手塚を見遣る。
一瞬の緊張感が二人を包んだ。
手塚は突然立ち上がり、自分の鞄からラジオを取り出しチューナーをラジオ体操に合わせた。ラジオから軽快な音楽が流れ始める。
「…間に合ったか。」
手塚は安堵の溜息を吐いて、ラジオの前に仁王立ちになった。そんな手塚を見ながら、大石は落胆の溜息を吐きながら、まあ、手塚が元に戻ったのなら良いかと、皆の朝食の準備に取りかかろうとした。


朝食の良い匂いに誘われて、降りてきたのは菊丸だった。しかしキッチンで目にしたのは手塚と大石が一緒に居る所で、それを見た菊丸は手塚に対して怒りが込み上げてきた。
バタバタと階段を駆け降り、キッチンに居る大石目掛けて後ろから抱きついた。
「大石−。朝起きたら居ないんだもん。俺すっごく心配したんだからな。」
「こら、英二!包丁持ってるんだから危ないだろう。」
大石に怒られた菊丸は反省する素振りも見せず。ずっと大石に引っ付いている。そしてチラチラ手塚の方を覗き見るのだが、手塚は、今ラジオ体操に夢中だった。いつまでたっても離れ様としない菊丸に見かねた大石が、お皿を並べてくれるよう頼んだ。菊丸も、手塚に見せ付けようとするのを諦めたのか、渋々と大石から離れて、お皿を並べ始めた。


朝食の用意があらかた揃った頃に各々の部屋から残りのメンバーたちが降りてきた。
大石の作った朝食を、育ち盛り、食べ盛りの9人はあっという間に平らげて、一息ついた所でこれからの共同生活をする上での幾つかの決まり事を相談した。まあ、もともとテニス合宿ということで来ているのだから、スケジュールとか、大抵の事は決まっていた。今の所必要なのは食事当番位だ。取り合えずと、簡単なあみだ籤を作って今日のお昼の食事当番を決めた。
当たりは一人。そしてその不運を引き当てたのは、乾貞治だった。その結果に乾以外は青褪めた。これでは不運は寧ろメンバー達の方だ。
今まで青学テニス部のメンバーは悉く、乾の作ったペナル茶や、乾汁で被害を被って来た。その乾に昼食を作らせたらどんな物を出されるか考えただけでも恐ろしかった。
決ってしまったものは仕方が無い。昼食抜きを覚悟しながら、朝錬の為に準備をしてコートに向かった。


場所が予定地とは違うと雖も、練習となると皆目の色が変わる。そんな中、食事係りの乾はメンバーより一時間早めに練習を上がり、いそいそとキッチンで食事の準備をしていたのだが、キッチンからは終始不気味な臭いが漂ってきていた。正直皆練習よりそちらの方が気になって仕方が無い。
「海堂―。キッチンの方ちょっと覗いて来いよ。俺が許すからさー。」
菊丸が海堂に白羽の矢を立てる。海堂は
「何で俺なんっすか。乾先輩だって一応は食えるもの出しますよ。多分。」
最後の『多分』に、海堂の自身の無さが窺えるのだが、あんな乾だが海堂は一応信用しているのだ。そうは言うものの内心気が気でない。練習が終わると、いつもなら真っ先にキッチンに向かうだろう桃城よりも先に海堂はキッチンに向かう。それをエプロン姿の乾が両手を広げて出迎えた。184cmの男がフリルのエプロン姿で出て来たら、誰でも逃げ出したくなるだろう。
海堂は後ずさりしながらテーブルに並べられた料理の数々に目をやる。海堂は料理を見て、乾を信用して料理を任せた事を後悔した。
諸々の事情から青褪めている海堂の後ろから、桃城、菊丸が恐る恐る覗き込む。
「にゃ、乾一体何をどう使ったらこんな物が作れるの。」
「何か、すっげー臭いがするんすけど・・・。」
二人からの散々な言われように、海堂だって同じ様に思っていたとは言え、腹が立つ。思わず二人に言い返す。
「料理ってのは見た目と味が違う時だってある・・・。」
そこまで言って、自ら墓穴を掘ったことに気が付く
「んじゃあ、海堂食べてみなよ。」
菊丸がそう言いながら海堂の目の前まで皿を突き出す。ああ言ってしまった手前、今更目の前の皿に箸を付けない訳にもいかず、出来るだけ小さい欠片を箸で摘んで口に運ぶ。
その途端、海堂は皆の予想通り箸を地面に落とし、脂汗を掻きながら自室に駆け込んだ。その様子を見て驚いたのは乾だけで、乾はおろおろしながら、海堂の後を追いかけた。
皆は心の中で海堂に対して合掌し、残されたこの珍品の数々を片そうと振り返ろうとした時に、
「乾ってば相変わらず、少し味付けが濃いんだから。あれ?皆食べないの?」
そう言いながら、テーブルの椅子に腰掛け、先程海堂が逃げ出した料理の皿を美味しそうに食べている不二の姿があった。
一同は不二の手前、料理を作り直す事も出来ず、食欲が無い等言い訳をしながら、自室に戻っていった。
とり合えず、夕食は再び大石が買って出た。
皆の空腹と犠牲者海堂の為、午後は各自自主トレということになった。
どうやら、皆の中で初めの脱落者は決ったようだ。


サバイバー開始二日目

二日目ともなると皆大分慣れて来た。本日の食事当番は、海堂・菊丸・河村と、食事当番はある意味他のメンバーには当たりの組み合わせだった。
一日の練習もスケジュール通りに進み、その日の夜。
予告通り例の妖精が現れた。
「皆様。お元気でしたか?今日がお約束の投票日になってますので、このボックスに脱落者にしたいメンバーのお名前を一人だけ書いて入れて下さい。」
皆が思い思いの名前を書いて、ボックスに入れ込んだ。
妖精は皆が用紙を入れたのを確認してから、集計を取って、メンバーの元に戻ってきた。
「発表します。えーっと、乾さんが7票でダントツトップですね。」
その言葉に、当然の事だが、乾が抗議の声を上げる。
「ちょっと待ってくれ、俺に7票って、後2票あるじゃないか。」
正直2対7なのだから、どう頑張っても乾がリタイアな事は確定な訳なのだが、この期に及んで、こんな所までもデーターを取ろうとしているらしい。
「何言ってるんですか。残りの一枚はあなたが書いた投票用紙で、もう一枚は誰か解からないですけど白紙で出してるんですよねぇ。」
妖精はそう言いながら、大石の方をチラリと見遣った。
妖精と目があった大石はビクッとなって、慌てて、妖精から目を逸らした。
そんなやり取りを見ながら、乾も諦め、覚悟を決めたらしい。
「では、最後に皆の前でお別れの言葉をどうぞ。」
妖精に促されマイクを手渡された。乾は、
「それじゃあ、皆、適当に頑張ってくれ。」
そう言うと同時に乾の体が異空間に消え掛けた。その時乾の左手が海堂をしっかりと捕らえ、海堂の体を自分の方に引きずり込み、小脇に抱えて、満足気に異空間に消えていった。
突然体を引っ張られた海堂は一瞬何が起こったのか判らなかったが、自分の体が、乾と共に消えて行こうとする事に気付き、乾の腕の中で必死の抵抗を試みたが、乾はビクともしなかった。
「っざけんなこら!行くなら一人で行きやがれ!!俺を巻き込むんじゃねぇ!離せーっ。」
散々吐いた悪態も、二人が消えると共に、静かになった。
メンバーはその様子を呆気に取られて見ていたが、誰一人として助けようとはしなかった。


現在脱落者二名。
サバイバーはまだ始まったばかりである。

 

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はい、リレー小説のトップバッター。湯塚 犬公です。乾海だから!!そう、これは忘年会でのお話・・・。「TVでやってるサバイバーをやりたいの。」そんな一言で誰がどうやって脱落していくか・・・。楽しく決まりました。青学レギュラー達にとっては鬼の宴です(笑)とりあえず真っ先に乾先輩が排除されたので、泣きながら、海堂を連れて行って貰える様に他のメンバーに頼み込みました。だって海堂守ってくれるの乾先輩しかいないし・・・(泣)ちなみに妖精さんは、ラブリーエ○ジェル不二ちゃんではございません。乾海なのは私だけなんで、これ以降二人は出ないと思われます(脱落したし)その分愛を込めて頑張りました!続き・・・出るんですよ・・・ね?(湯塚犬公)

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